インタビュー Vol.2 リメイク作家玉井香織さん

インタビュー Vol.2 リメイク作家玉井香織さん

Vol.2「写真×DIY」
お話をうかがった人
ハレルヤ工房 DIYアドバイザー・収納アドバイザー・リメイク作家 玉井香織さん
桑沢デザイン研究所卒業。地元北品川の「ハレルヤ工房」を拠点に、DIYや作品作り
はもちろん、空間施工やワークショップ、TVや雑誌での仕事など、その肩書きの多さ
からもわかるように、活動の幅は広い。近年は、ホテルの内装や、古民家のリノベー
ションなどにも関わる。

 

「時間をかける」ということを、もっと楽しんでほしい。

人に喜んでもらえたとき「これはいいかも」と思ったんです。

ーー玉井さんがDIYを好きになったきっかけは何でしたか?

小学生の頃、クラスメイトに赤い革のふでばこを使っている子がいて、それがものす
ごく魅力的だったんです。なんとかして同じものを手に入れようといろんな文具店に
行ってみたのですが、けっきょく見つかりませんでした。

でも、そのときに気付いたんです。
私がほしかったのは「ただの赤い革のふでばこ」じゃなくて「彼女が丁寧に手入れし
ながら使っていたふでばこ」だったと。

彼女はふでばこをとても愛着をもって使っていたんだと思います。
適度に使い込まれたあの独特の赤色は、他ではなかなか見られない素敵な色でした。

あの色は彼女の「手入れ」によってつくられていたんですね。
今思えばこそですが、これが私がDIYを好きになった原点だと思います。

ーーその頃からDIYに目覚めたのですか?

いや、そうでもなかったですね(笑)。
ただ、当時からものづくりには興味があって、のちに桑沢デザイン研究所でプロダク
トデザインを学ぶこともしました。

10年ほど主婦をやって、離婚も経験して、そろそろ何かしないとなぁと思っていた頃、
ハローワークの職業訓練校に「DIY科」があるのを見つけたんです。
毎日朝から夕方まで、半年間かけてDIYのことをひたすら学べるというものでした。

さっそく入学し、あらためて学んでみると……これが面白くて面白くて。
かつて桑沢デザイン研究所で学んだことから、暮らしのこと、建築のこと、ガーデニ
ングなど何でもありで、すごく刺激を受けました。

その後、2010年にはついに、元建具屋さんだった場所についに自分の工房を構えま
した!
が、最初は作品をつくれどもつくれども、ものが溢れるばかりで納得いかない日が続
きました。

そんなある日、近所の方から「家具を直してほしい」と依頼があったんです。
やったことがなかったので、おそるおそる引き受けたのですが、後日修理したものを
手渡すと……これが予想外にものすごく喜んでもらえたんですよね。

「あ、これはいいかも」と、ここで気づきました。
私は好きなことができるし、人に喜んでもらえるし、ものはリサイクルされるし。

それからは、宣伝しなくても不思議とどんどん仕事が来るようになりましたね。

失敗を恐れていたら、進化はないんですよ。

ーーDIYの魅力をおしえてください。

私は作業工程の時間が最大の魅力だと思っています。
例えば、使い古された椅子をDIYする場合。
「何が気に入って買ったのかな」や「どんな人がどんな場面で座っていたのかな」な
ど、想像をめぐらせながら手を動かす時間は、ものすごく心が豊かになるんです。

私はこれを「ものと会話する時間」と呼んでいます。

今の時代は、なんでもかんでも「早く」とか「効率的に」とかで物事を済ませてしま
いがちです。
私は、ちょっとした手間や時間をかけるところに、想いだったり背景だったりを想像
することで得られる、本当に大切な何かがあると思っています。

また、DIYはものをつくって終わりではありません。

以前使っていた人から自分に。今度は自分から次に使う人に。
そんなふうに引き継がれていくところにも楽しみがあるんです。

DIYって、そうやって人とものをつなげる存在だと思います。

ーー玉井さんのようにDIYを楽しむためのコツや心がけなどはあるのでしょうか?

人にDIYを教えることもよくあるのですが、みんなすぐに「正解」を知りたがるんで
すよね。
「何cmに切るのか」とか「どの色がいいのか」とか。

だからと言うと私が意地悪みたいですが(笑)、DIYを楽しむコツは「失敗」だと思っ
ています。

自分で考えて、工夫して、手を動かして。
結果できたものが不格好でも、その過程で学ぶものが大きいんですよね。

壁なら塗り直せばいいし、木を切りすぎたら違う木を利用すればいい。
失敗が意外といい味になることも多いし、どんなことでも楽しむという精神も身につ
きます。

失敗を恐れていたら、進化はないんですよ。

ただ、「失敗してもいいや」と投げやりな姿勢になるのは違います。

せっかくなら写真を例に出しますと……
フィルムカメラの時代は、1枚1枚すべて現像するので、シャッターを切る行為すべて
に緊張感がありましたよね。

その中で失敗すると、「ああ、こうしてはいけないんだな」と、強烈な体験として学ぶことができたはずです。でも今はデジタルカメラ全盛ですから、失敗を失敗と感じないのかもしれないです。

私からすると、その感覚が少し寂しく思えます。
ちゃんと失敗することが、大切なんですよ。

冷蔵庫の中にイヌイットの写真とか、面白くないですか(笑)?

ーー玉井さんにとって生活の中の「写真」とはどんなものですか?

写真のいい話をしておいて恐縮なのですが、今の私は写真を「ただの情報」として見
ていました(笑)。
ブログに使ったり、写メで簡易的に記録したり。

でも、写真家さんの個展なんかにはたまに足を運びますね。
「この写真家さんはこんな視点で物事を見てるんだぁ」といった感じで楽しんでいます。

ーー「DIY」と「写真」はどう共存できるでしょうか?

まず既成概念にとらわれないことが大切だと思います。

どこにどんな写真を飾る「べき」か。
そんな風にカタく考えていても、きっと生活は楽しくなりません。

例えばですが……冷蔵庫の中におおきなイヌイットの写真を貼るなんでどうですか(笑)?
あ、でもふやけちゃうからダメか……。
でもでも、違うものに印刷するとか……。

こうして考えると、ちょっと楽しくないですか?
写真を飾ることは難しいって考えるのではなく、自分なりに楽しもうとすることが大
事なのではないでしょうか。
DIYも、けっきょくそれが基本なので。

心に「余白」を持つことで、暮らしはもっと豊かになる。

ーーこれからの暮らしを豊かにしていくために、私たちができることは何でしょうか?

日本では「こうあるべき」と教育されることが、そもそも多すぎる気がします。
子どもが小学生の頃に、授業参観で図工の工作の時間を見たときの話です。
小学生はしきりに「あれやっていいい?」「これやっていい?」と、ある意味突拍子
もないリクエストをどんどんするのですが、それに反して先生はできることをどんど
ん制限するんですね。

「え……つまんない」って、本気で思いましたね(笑)。
せっかくものづくりの時間なのに、創造性がまったく発揮できないんです。

たとえば、事前に「図工に使えそうなものが家にあったら持ってきて」と言っておく
だけで、みんな考えるし、それぞれが違った面白いものづくりができると思うんですよね。

暮らしだって、そうやって工夫することで、豊かになるんじゃないでしょうか。

私がまだ幼い頃、祖母は柄がなくなったボロボロの鍋にゴボウを挿して持ち手にして
いました(笑)。
これはやりすぎかもしれませんが、そのくらいクリエイティブになれたら、毎日はき
っと楽しいですよね。

何かと時間に追われてしまいがちな現代社会。
そんな中で、心に「余白」を持つことは、豊かな暮らしには必要不可欠だと感じます。
暮らしは、もっと気楽でいいと思うんです。

私はその「余白」で、毎日遊ぶように暮らしていますからね。

 

 

 

 

あとがき(写真と暮らし研究所代表/鈴木さや香)
世の中にDIYをするひとはどれだけいるだろうか、、、と考えると、実は写真を撮る人と同じくらいいるのだと思います。とても一般的になってきた昨今。それで、そんなにたくさんの人に愛される文化ですが、それぞれ一番重要なのは「楽しむこと」だとしても、自分勝手に楽しむということではないという気がします。
DIYで気分次第でなんとなくつくっても、気分次第で壊してしまうならそれらは大量のゴミになってしまうし、写真も自分都合に撮りすぎると被写体となる人や場所に嫌な思いをさせてしまう。そう思うと、手軽になった分アイデアやつくった(撮った)その後も考えながら、楽しむというのが重要な気がします。
玉井さんのDIYの根底には、受け継がれてきたものをあるべき状態に直して、必要とする人に返すという想いがありました。ここに存在することを最大限に喜び、受け入れ、そして次へ受け渡す。それはきっとモノへの愛情であり、また、生きているこの世界を愛して受け入れているからこそなんだと思いました。写真だって、一瞬を切り取るように思えても、長い歴史の中の一瞬を借りているに変わりありません。継承したすばらしいものをまた次の世代が継承できるように、ていねいに世界を切り取る必要があるように思えてならないのです。

文/構成:佐藤卓
編集:徳永一貴
インタビュー:鈴木さや香

 

 

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