【写真と暮らし研究所 インタビュー】 Vol.3

Vol.3「写真×ポスター」

ポスターを「買って、飾りたい」と思わせるひとつの要因は美しく額装してあること。
それって写真にも当てはまるかも!?



輸入ポスター専門店「ナップフォード・ポスター・マーケット」井上恭太さん・慶太さん。

2014年、マンションの一室でスタートした「KNAPFORD(ナップフォード)POSTER MARKET」。
デザイン性の高い輸入ポスターを美しく額装して販売する独自のスタイルが口コミを中心に人気を呼び、2017年6月には念願の路面店を「参宮橋」駅(渋谷区代々木)から徒歩2分の住宅街にオープン。
運営するお二人は実の兄弟で、弟・慶太さんがオーナーとして事業をスタートさせ、兄・恭太さんに声を掛けて手伝ってもらうようになったそう。
明確な役割分担はないものの、恭太さんは主に日々の接客や店舗運営を担当し、慶太さんは商品のセレクトやデザインまわりを担っている。

写真といえば「撮る」ことに一所懸命で、その後はSNSにアップしたら終わりという人が多いもの。
しかし、本来「写真」が持っていた魅力と、一過性の視覚的情報であるSNSが果たす役割は、果たして同じなのだろうか?
「写真」というカルチャーを、使い捨てではなく、暮らしの中に取り込んでいくためにはどうしたらよいのだろう?
「写真と暮らし研究所」はそんなことを考えながら活動している。
今回のインタビューでは、「ポスターなら室内に飾りたくなる。だったら写真は・・・?」という可能性を見出したくて、輸入ポスターを素敵に販売する井上さん兄弟に話を伺った。
「日常生活にアートを取り入れること」「美しく額装して飾るということ」
──何かと関連性の多い「写真×ポスター」を取り巻くお話は、視野を大きく広げてくれる。

海外では普通に流通しているエキシビションのポスターを日本にも

──なぜ、ポスターという媒体に興味を持たれたのでしょうか?

慶太さん:自宅をリフォームした際、壁に何か飾りたくて探したんですが、国内にはいいものがなかったんです。
海外で調べてみると、ヨーロッパにはエキシビションのポスターなども大量に流通しているのに、日本にはなくって。以前はあったんですが、今は扱う店舗が少ないということを知りました。
だったら自分でやればいいんじゃないかなと思ったのが最初です。

恭太さん:ロートレックやコクトーがポスターに芸術性を与えた時代を経て、ポスター自体が持つ価値も時代とともに変わっていきました。
うちでよく扱うエキシビションのポスターでいうと、デザイン+フォント、レイアウトなど、1枚の紙の中にさまざまな要素を活かした別世界がある。そういうのがポスターの魅力だと感じます。

慶太さん:最初のうちは、安いもの多種そろえて・・・という感じでしたが、厳選していくうちに、高くてもいいものをちゃんと入れたほうがお客さんの需要にも合うんだとわかりました。

会社としての体力も付いてきたので、自己満足じゃないですけど、「これは売れなくてもいいから、とにかく自分が買っておこう」という、こだわりのようなものも1本通ってきました。

──慶太さんは本職がデザイナーということですが、ポスターに関してもともと知識があったんですか?

慶太さん:大学時代、コラージュされたゴダールのポスターがかっこよくてそれを部屋に飾ったことはあります。
あとは、おしゃれな雑誌の切り抜きやポストカードなどはもともと好きで、よく飾っていました。でも、それ以上の知識があったわけではないんですよ。

でも実際に始めてみたら、結果的に自分たちが楽しめる仕事ができていますし、競合他社もあまりいないので、いい商材を見つけたな、とは思います(笑)。

作品を買い付ける際は、作家の有名・無名を問わず、「家に飾ってオシャレかどうか」という視点を大切にしています。
たとえばモネやマネなど印象派の絵画って日本でも人気がありますが、実際、自宅には飾りにくいですよね(笑)。
それよりは、たとえ無名でもタイポグラフィとかエキシビションとか、デザインされたポスターのほうが受け入れやすいのかなと思って選んでいます。

──飾る側も、ポスターならではのデザイン性があるおかげで気軽に飾れるのかも。アート作品は主張が強くて飾りにくいイメージがあるけど、そこに遊び心やポップ感がプラスされると飾りやすくなるのかもしれませんね。

ポスターを飾りたくなる理由は、作品の価値を高める素敵な額装

──店内を眺めてみるとどれも本当に素敵で。何気なく飾ってありますが、普通に考えるとやっぱりちょっと難しい気もするんです。飾るとき・選ぶときのコツってありますか?

慶太さん:お客様は好みや目当ての作品があって来店されますが、最終的には全く違うものを選ばれることが多いです。
飾る場所のサイズ感だけ頭にあれば、あとは本当に自由に。

うちのポスターを見て「飾りたい」と感じてもらえるひとつの要素は、きちんと額装しているからだと思います。
僕自身、美術館でポスターを買ったとき、「額をどうしよう。めんどくさいな・・・」と思ってなかなか飾れなかったことがあります。
たぶんみんな同じだろうなと思って、そこも含めて提案することにしたんです。

額装の仕方はとくにルール化していませんが、ふたりで相談しながら、フレームの色合いも含めたひとつの色として全体を見て決めています。
これまで「別の額に変えてほしい」といった要望はほとんどないですね。

恭太さん:僕たちが若い頃にポスターを飾るというと画鋲でザクッと壁にさす感じでしたけど、額装することでポスターの価値も変わるというか、“額込みの作品”として気に入ってもらえています。

1つの作品を大きく飾るのもいいし、小さな作品を複数飾るのもアリですよね。
たとえばわが家の場合、母親も壁に絵を飾るのが好きで、藤田嗣治のネココーナーが壁一面にあったり、僕はグラフィック系が好きなのでそういうのでまとめていたりします。
テーマや色味を揃えると、飾りやすいかも。

ポスターの飾り方は自由。壁に掛けても床に置いても、洋でも和でも!

──海外のほうがポスターの流通が多いということでしたが、実際に「飾る」という点でも外国では写真やポスターを自然にインテリアとして取り入れていますよね?

恭太さん:文化として、海外はすでに飾るということへの素地ができているので、アート作品やポスターは当たり前にあるもの、という感覚でしょうね。

慶太さん:そういう意味では、海外の雑誌や写真集のインテリアを参考にするのもいいかもしれません。

あと、ポスターを飾るポイントとしては、壁に掛けられなければ、額装したものを床に立てかけたりもできますよね。

作品のサイズと飾るスペースの関係は無視できませんが、基本的に好きなものを好きに飾ればいいと思います。ただ、たとえばエキシビションだと同じ会期でいくつかデザイン違いや色違いがあったりするので、対になっている作品は並べて飾るとイメージがよりふくらむかなと。

恭太さん:畳敷きの和の空間に飾っても意外と決まります。たとえば畳の上にラグを敷いてワンクッション入れるとか、木目のフレームで和のイメージを出すとか、いろいろ工夫してみるのも楽しそう。

慶太さん:床の間にポスターが飾ってあってもいいかもね。

恭太さん:そうだねー!

「ポスターは飾りたいけど、写真は?」・・・写真を飾りたくなるアイデアを探る

──「写真」と「ポスター」の大きな相違点は何だと思われますか?

慶太さん:写真って小さいサイズで見慣れているので、大きくするとキャパオーバーというか、疲れちゃうのかな?という気はします。僕の自宅には、友人が撮影したモノトーンのフクロウの写真を飾っているんですが、店での傾向を考えると、写真メインのポスターだとしても、少しアート寄りのほうが売れてはいますね。

恭太さん:リアルな現実感が圧迫感として感じられるせいか、人物写真のポスターは正直、反応が薄いですね。かっこいいけど、飾りたいとは思えないのかなと。

“作品然”としていると逆にハードルを上げてしまう可能性もありますよね。

──手軽に撮れるのが「写真」なのだけど、作品になっちゃうと飾りにくい、という・・・。

恭太さん:写真にしろポスターにしろ、マットを使って額装することも多々あるかと思いますが、うちはすべてノーマットです。僕個人はマットの質感は嫌いではありませんが、ノーマットのほうが手軽感は出ますよね。

──私もノーマットのほうが好きです! マットを付けずに40枚くらいの写真をだーっと並べて展示したことがあるのですが、そのひとつひとつが窓のようで楽しかったのを覚えています。ノーマットで額装する、ということのほかに、文字とのバランスもすごく重要かも、という気がしてきました。文字を入れることで緊張感を緩和してくれるのかもしれないですね?

慶太さん:デザイン寄りのほうが飾りやすい、という意味では、写真をコラージュしたり文字をのせたりするのはいいかもしれません。
ただ、日本語の文字だとやはり直接的すぎるかな、とは思います。
先日、買い付けでデンマークに行ったとき、日本で開催された展示会のポスターが販売されていたんですが、あちらでは日本語が珍しくて魅力的だからでしょうね。

恭太さん:文字を入れるとしても情報は少ないほうがかっこいいと思います。とくに昔のエキシビション・ポスターは、開催場所・アーティスト名・期間だけが配置されているだけで、とにかくシンプル。
日本の美術展示のポスターなどは、年々、情報過多になっていません?
スポンサーとかURLとか入れたりして、ああなると興ざめしちゃいますよね。

完成度の高い海外のポスターを、完成度をさらに高めた額装で届けていきたい

──今後の展開は?

慶太さん:店を大きくしたい、という願望は一切ありませんし、イベントにも出なくなると思います。
以前はインテリアショップに卸したり、イベントに出店したりもしたのですが、なかなか売れないんですよ。
インテリアとして飾ってあると“いいな”とは思っても、家具を買いに来た人は家具しか買わない。
自分がお客さんの立場だとしてもそれはそうだよな、と思いますから。

恭太さん:その代わり、うちにいらっしゃるお客様は「ポスターを買いに来る」という明確な目標があるので、来店されたらお買い上げいただく確率がとても高いです。

慶太さん:たとえば自宅をリフォームした人が、「今まで飾りたいと思っていても飾る場所がなかった」という欲求を満たすかのように、一気に何枚も購入されたり。

恭太さん:そう。ある程度大きいサイズかがけっこう出ます。
知人へのプレゼントとか店舗・オフィスに飾るために購入される方も多いのですが、自分のお気に入りを探しに来る方も増えています。
インテリアの優先順位でいうとポスターって最後の最後ですが、その締めくくりで探し始めた人たちは必ずうちに辿り着いてくださる、っていう。

慶太さん:雑貨屋でも家具店でもなく、ポスター専門店というニッチな存在だからこそ、買いたい人が集まってくれるっていうのはやっぱりありますよね。
今後も完成度の高い輸入ポスターを販売する専門店としてやっていきたいので、自分たちでポスタ
ーを作るつもりもありません。

今後、ナップフォード・ポスター・マーケットとしてひとつ手を広げてもいいかなと思っているのは、オリジナルの額を自分たちで作ること。
そこは、作品を見せる上で重要なポイントなので、さらにこだわりを持ってやっていきたいなと。

──古いポスターの中にも完成度の高いものがたくさんあって、でも、そういうものを発掘して販売してくれる人がいないと、ほしい人の手に渡らないですものね。

恭太さん:四隅にテープや画鋲の跡が残っているポスターとかね、あったりするんですよ。
そういうのも『味』ととらえてくださる方が多いです。

──ドラマがありますね〜。長く愛されるものを作るべき、ということでしょうね。
写真にも活かせるアイデアをたくさん語っていただいて、本当にありがとうございました!

***あとがき***
写真は「自分で気軽に撮れるもの」だから、わざわざ額装して飾ろうという発想にはなかなかならない。
しかし、今回お二人の話しを伺いながら、写真をひとつの作品要素としてとらえ、デザイナーがポスターのような形にデザインしたら、「飾る」というハードルがひとつ下がるのではないかと感じた。

さらに写真を「買ってもらう」ことを意図する場合にも、余白を活かす、文字をのせるなど「ポスターのようなデザインに寄せていく」ことで、人が手にしやすくなる“遊び”の要素がうまく表現できるのかもしれないとも思えた。

そして、作品のメインになるポスター(あるいは写真)と、それを縁取る額装との組みあわせ。
その重要性に着目し、こだわっているナップフォード・ポスター・マーケットの売り方は、買いたいと思う側の目線に立っているし、至極正しい。

写真を撮る人間にとっても、自分で自分の作品を作る・プロデュースするという行程はとても重要なのだけど、残念ながらそこまで考えている写真家はあまりいないように思う。
そのプロセスを楽しみながら「写真を販売する」「飾ってもらう」ための工夫を続けていけたら、写真の在り方は少し、いや、もしかしたら劇的に変わるかもしれないと思えた。

文/構成:木戸上かおり
編集:徳永一貴
インタビュー:鈴木さや香

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