【写真と暮らし研究所 インタビュー】 Vol.1

【写真と暮らし研究所 インタビュー】 Vol.1

Vol.1 レコーディングエンジニア&ミキサーズ・ラボの代表取締役社長
三浦瑞生さんに「写真と音楽」について問う。

便利になったが故に失ったものの中に、とても大事なものがあるのではないのか

<三浦瑞生さん バイオグラフィー>小学生のころから歌謡曲が好きだったが、中学時代に友達からベスト盤「赤盤」のカセットテープを借りて聴いたビートルズに衝撃を受けて、本格的に音楽に目覚める。1982年にテイチクスタジオでアシスタント・エンジニアを始める。その1年後にミキサーズ・ラボに移籍。1985年にエンジニアデビュー。ON AIR 麻布スタジオのチーフエンジニアを経て、現在はミキサーズ・ラボの代表取締役社長として、エンジニア育成&マネージメントとスタジオ「ラボレコーダーズ」、ワーナーミュージックマスタリングの運営をしながら、一流アーティストからのご指名エンジニアとして第一線でも活躍を続けている。代表作は今井美樹、福山雅治、KinKi Kids、谷村新司、TUBE、スキマスイッチ、中村雅俊、一青窈、尾崎亜美、松たか子、他多数(敬称略)。
http://www.mixerslab.com

<鈴木のまえがき>
写真と音楽は共通項がとても多い。そんなことを考えて、日本屈指のレコーディングエンジニアであり、写真を愛する三浦さんにお話を伺った。三浦さんはインタビュー中「欲しい音を拾うには」と何度も言った。写真で言うところの「欲しい光や、欲しい被写体」と同じことだ。そして続けたのは、「機械が壊れる寸前でもその音がかっこよければいいのではないか、一般的ないい音ではなく自分でいいと思う音を判断することが重要」ということ。レコーディングエンジニアも、機械と向き合いながら人に向けて作品を膨らませていく伝道師だ。伝えること、伝えたいということ、それは最もシンプルな欲望だ。そのシンプルな部分に必要なのは、上手に巧くやることじゃないと、そんな過激なことを何重ものオブラートに包んで、お話してくれた。私も、機械と常に向き合い、人に作品を伝える職業だ。そこでいつも思うのは、いちばん大事でいちばん重要なもの、つまり「熱量」を持っているかどうか。熱量のある写真は、飾ったり使用されてもそこからエネルギーがしっかりと流れ出て、人をリラックスさせたり興奮させたりする。「作ろうとしているものに熱量はどのくらいあるのか」けれどもこれは撮り手だけに限らない、きっとクライアントやそこに携わるすべての人にも言えることなのだ。再度三浦さんに問われた気がした、そんなインタビューだった。

心を豊かにしてくれる写真とは?

—三浦さんが音楽だけでなく写真も大好きなのが、私はとてもうれしいんです。

ファインダーを覗いていると頭が真っ白になるんですよね。カメラと写真は、仕事以外の貴重な趣味なんです。

—絵画や映像ではなくて、写真にこだわりがあるのはどうしてでしょうか。

不思議なことに、写真は好き嫌いや色の好みなどがハッキリあるのに、絵画はあまり無いんです。写真は、ある意味で現実なのでイメージしやすいからかもしれません。あるシーンを切り取ったものなので、その写真から色々イメージすることで、心を豊かにしてくれる。写真を見るときは、あまり音のことは考えないです。どんな人がいるか、どんな場所か、どういう背景かを想像します。映像については、仕事場で「この曲のミュージックビデオをつくるとしたら?」という話が出ることがありますが、自分は曲のイメージを歌詞のイメージに合わせると、頭の中に動画ではなくてスチール写真が出てくるんです。ワンセンテンスごとに、スチール写真のようにシーンが折り重なってストーリーが出来ていく。動画が浮かんでこないのは、自分の頭の中にある映像にはすでに音がついていて、イメージに合う音楽も既に存在するからなんでしょうね。

—音を感じる写真もありますが、実際には音と一緒に収録されないですからね。ある場面をイメージさせる「音」があるとそれに合う「写真」が記憶から引き出されるんでしょうね。
三浦さんから見て、音と写真にはどんな共通点がありますか。

写真と同じように、音にもフレームや画角があったり、主役や脇役の楽器やメロディ、そして背景がある。空気感やコントラストもある。マイクのメーカーや型番によって音が変わるのは、カメラのレンズに似ていますね。自分が写真を始めた頃はまだフィルムの時代で、その頃、レコーディングスタジオでの音のマスターはアナログのテープでした。フィルムによって色味や質感が違うのと同様に、アナログテープもメーカーや品番によって音が違いました。

欲しい音をつくるために、機械が壊れないギリギリまで攻めることもある

—つくる人の範囲内でコントロールできるアートもありますが、写真は機材に委ねる部分もあるので、偶然が起きたりします。それも面白い化学反応だったりしますが。音の場合はいかがですか。

音も正解がひとつではなくて、欲しい音が録れればそれでいいんです。例えば、コンプレッサー(音量の強弱の差を縮めて音の芯を引き出す機材)は「掛け過ぎると音が潰れて元に戻せないから気をつけて使う」のが一般的なのですが、アシスタント時代ある海外のエンジニアが凄く強く掛けていたので驚いたら、「君は出ている音を聴いてどう思う?よい音だと思うんだったら、いいんじゃない?」と言われました。使い方をマニュアル的な固定観念で考えないで、機材が発する危険信号の手前で収めつつも、創意工夫して欲しい音をつくることが面白さかなと思うんです。

—これが格好いいから少し荒っぽくてもこのやり方で特徴を出そう、という考え方ですね。写真は、被写体を現場の臨場感で撮って仕上げる人と、フラットに撮っておいて後で調整してイメージを再現する人に分かれる気がします。例えば、白トビも含めてその場のものだからよしとするか、白トビや黒つぶれを嫌がって安牌な撮り方をするか。私は前者なんですが、音ではいかがでしょうか。

音の場合も、音楽の作り方にもよりますが、最初に仕上がりのイメージを想定しながらそれを形に取り込んで録る人と、当たり障りなく録って後でいじる人がいますね。自分は前者です。録音の現場でやらないと、後では出来ないこともあると思うんですよね。ただし100%に決め込んで録らないで、録りの時点ではベクトルを合わせながら80%~90%くらいの状態にして、残りはミックスで調整します。ダビング(重ね録り)の工程では、今から演奏する皆さんは、すでに録り終えている音を聴きながら演奏するので、聴いてもらう音(録り終えている音)の方向性がハッキリしていないとフォーカスが合わなくなるんです。だから自分は先々の工程も見越して、イメージを固めながら録ります。ただ、全ての録り音が揃ってから「どうにかならない?」と言うアレンジャーもいるので、最初に相手の性質を見抜いて、できる範囲で相手の希望に擦り合わせるようにしていますね。

エンジニアの自分はゼロからイチはつくれないから、イメージを共有しながら、全員の役割を活かしてよい形に

—三浦さんは常にアーティスト、演奏家やアレンジャーさんを中心に考えて、その作品が仕上がるまでを見据えて一番よいやり方を選び続けているんですね。

最近の録音の現場では、演奏家は、アレンジャーがつくってくるアレンジデモの音源をスタジオで録音する前に聴いてから演奏するので、「こういう方向性の楽曲」と分かったうえで、それに合うような演奏や音色を考えてプレーします。更にエンジニアがただ普通に録るのでは無く、その曲に合わせたサウンドやバランスにすると盛り上がるんですよね。現場で盛り上がって感動したものを録らないと、聴いた人は良いとは思ってくれないですからね。あと、聴いて心に引っ掛かるかどうかが大事です。曲に合った音色やフレーズや弾き方などがあって、その表現に感動する。例えば、ある曲ではキーボードが本職のアレンジャーのデモ音源に入っている拙いギターの方が、ギター本職の人の饒舌な演奏よりもしっくりきたこともありました。

—テクニックよりも、「仕上がりのイメージを明確に想像できるかどうか」が大事だということですよね。あと、現場の臨場感や高揚感が大切。言葉では説明がつかないパワー感っていうのはありますよね。私が写真を撮る時、被写体とレンズ越しのバランスが一致すると気持ちよく撮れるんです。オートではなくて「こういうイメージでしか撮りたくない」という気持ちのまま。その高揚感は後では出せなくて、その瞬間が大事なんですよね。イメージを形にするうえで意識していることはありますか。

音楽的なバランスを取るだけじゃなくて、曲に魅力を持たせるために、ムードとか空気感を踏まえて音を調整します。様々なエフェクト、リバーブなどで、イメージに近づけていくんです。イメージが明確だと早いですね。でもイメージが独りよがりにならないようにも気をつけています。その中で自分の個性が出るといいんだと思います。

—写真は平面ですが、私は空間表現だと思っていて、そこに機材を配置します。照明を使う場合、例えばストロボを使って光線で空間をつくります。ライティング自体は全てコントロール出来る部分なので、イメージがあるかどうかが大事なんです。ハイライトや影などを全部計算して、一斉にストロボが光り一枚の画を出した時にようやく他の人が理解します。

肉眼で見ていたら、ただそれだけのものだったのに、写真になると肉眼では見えなかった物に見えてくる。音も同じで、必要ない物を削ぎ落として、必要なものを引き出して計算していきますね。音も空間表現で、音をスッキリさせるなら空間を広げて、パワー感を出したいなら空間を小さくまとめます。

—被写体自体のポテンシャルが低いと困る時がありますが、元々のポテンシャルが低い音の場合はどう対処していますか?

全体のポテンシャルが低い場合と、その中の幾つかのパーツだけが低い場合でやり方は変わりますが、、、例えば、生のストリングスセクションと比べると、シンセサイザーのストリングスの音は痩せていることが有ります。それを、豊かな生音に近づける方向に持っていく考え方と、楽曲内でストリングスの音が担う効果を発揮できればいいからマイナスを削って、よいところだけ出すという考え方があるんです。

—なるほど。ある物をどう活かすか、ということですね。

エンジニアの自分はゼロからイチはつくれないですからね。アレンジャーや作家や演奏家のイメージに寄り添う必要があるんです。ただ一緒にやるからには、自分も「いいね!」と思わないと意味がないですよね。

—レコーディング・エンジニアは料理をつくることに例えると、どういう立場でしょうか。

エンジニアは素材をまとめる人で、料理人でしょうか。具材を切る人、味付けする人、焼く人、炒める人、揚げる人、盛り付ける人など、一人で10人くらいの働きをする立場です。オススメの調理方法を提案してくる演奏家の音を、作家さんやアレンジャーさんのレシピに擦り合わせながら、エンジニアが最高の料理に仕上げていきます。予定していた調理方法が現場で変わることもあります。

音楽とは違うところへ行ける、頭の中を切り替えられる写真

—音楽が生まれるレコーディングスタジオにとって重要なことは、何でしょうか。

音楽は、生み出すのは作家さんです。音楽には「メロディ」「ハーモニー」「リズム」の3要素があります。メロディが主役で、歌詞はメロディに添うので主役に近いですが、その3要素は作家が各自の仕事場(曲作りや練習をする場所)などで曲の核をつくるんです。それを実際の形にするのがレコーディングの場ですね。今はスタジオ以外でも簡単に録音するということが出来るようになりましたが、スタジオはどういう音楽が来てもある程度対応できる場所です。録り方も自由にできる。スペースもある。楽器とマイクとの距離はとても重要で、録音するスペースが狭いと録れる音も限定されるんです。マイクとの距離が近いと音に強さが出るし、離れると間に空気があるので柔らかくなる。演奏やマイクの種類で曲のイメージに合わせるだけでなく、マイクの距離感も大事なんです。距離感を調整しても外からのノイズが入らないのがスタジオです。フレキシブルに、目指す音楽に向かって、録れる場所だと思います。

—光も性質があり、近いと柔らかくなって離れると固くなるんです。また、背景の落とし込み方など特徴があるので小さなスタジオでは対応できないこともあります。光、距離、空間に含まれる物。そこを最大限表現できるのが使いやすいスタジオだと思います。ところで、この「クライアントルーム」というお部屋に写真を飾っていただいていますが、何か理由がありますか。

クライアントルームは、ちょっと一回音が鳴っている現場から離れることで、現場に戻ったときに俯瞰で見れるように、新鮮に聴ける様になる為の場所です。あと、スタジオで聴くといい感じに聴こえるので、あえてこの部屋の家庭用スピーカーで聴く人もいます。ここはリラックスしようとする部屋なので、殺風景ではないようにと思って、自分は絵画ではなくて写真が好きなので、写真を飾りました。写真があることによって気持ち良い空間になり、頭の中を切り替えられるんですよね。音楽とは違うところにヒュッと行ける。自分は食事のときなど、この部屋でテレビや写真を見てリラックスしていますね。

—音楽は、どういうものが好きですか。クラシックのように言葉がないものもありますが。

自分は言葉よりもまずメロディを聴いてしまいますね。ただその中でもボーカル物が好きなので声が欲しいんですが、何語でもいいんです。どんな楽器と比べても、声の表現力が一番凄いと思います。ある凄腕のギタリストでも、「表現力は歌にはかなわない」と言っていました。女性は、歌詞が先に入ってきてグッとくる人も多いかもしれないですね。

「世界に一つしかないもの」をつくるんだから丹精込めてよいものをつくる

—最後の質問になりますが、写真は、「暮らしの中で消費される情報」のような扱いになってきています。音楽がこれからも愛されるために重要なのは、何でしょうか。

音楽は買うものではなくなりつつあります。ライブには行くけど、ふだん聴くのはストリーミング(YouTube、Spotify、Apple Musicなど)で、手元には持たない人が増えています。でも、「凄くよい物は自分の手元に持っていたい」とは、みなが思っているはずだと思うんです。だから、もっとよいものをつくらないといけない。買ってもらって、消費物ではなくアートとして手元に残してもらいたい。

—写真も、スマホで撮ってSNSにアップしそれでお終いで、飾ることも見直すこともない人が増えています。便利になりましたけど…。

音楽の世界でも、録音機器や録音そのもののやり方が変わり、便利になりました。でも便利になったが故に失ったもののなかには、とても大事なものがあったのではないかと思うんです。以前ならば、全員で一斉に演奏するような音楽の制作では、よりよいテイクを求めて何回も演奏していたし、一部分をミスした人は、そこを何度も録り直していたのが、最近は間違えた部分は曲の中の別場所からのコピペで済ませてしまいかねない時代になってきています。予算などの事情で、効率良く短時間で終わらせないといけないのは分かるんですが、音に込めた気持ちは、コピペする場所同士で同じなのかと。曲には起承転結があって場所によって気持ちは違うはずなんです。コピペの集合体になると一本通らないものになってしまう。やっぱり、「肝」の部分は苦労してでも作らないと、人に伝わらないものになります。人に伝わるものをつくるのが自分たちの仕事です。売り方も大事だけど、生み出す時に「世界に一つしかないもの」をつくるんだから、丹精込めてよいものをつくるんだという、プロとして最低限のポリシーが大事なんだと思います。創ったものや、やったもので人が喜ぶ、楽しむ、気持ちが豊かになる。だからそれに対してペイメント(報酬)がある。そういうものをつくらないといけないんだと思います。それがプロフェッショナルだと思います。

 

<編集後記>
ぼくは、三浦さんと同じレコーディング業界にいる人間として、業界特有の言葉を誤解なく受け取るために、今回のインタビューに立ち会った。三浦さんからは出てこなかった言葉だけど、ぼくが強く感じたのは「人間愛」。おそらく、三浦さんは人というものに絶対的な自信を持っていて、土台がドッシリしているからブレずに本質だけを見ることができるので、他人をありのままに感じ取りながら、音と音をお互いに高め合うように整えていくことができるんだと思う。それもまた、多くの音楽家から信頼される理由なのだろうと思った。ぼくなりに、音を写真に置き換えて考えてみると、「所有する写真」や「残す写真」を撮りたいという意識が大事なんだと思う。創ったものや、やったもので人が喜ぶ、楽しむ、気持ちが豊かになる。ペイメント(報酬)があるプロフェッショナルには、そういうものをつくる使命がある。アマチュアにはその使命はないけれど、誰かの心を動かす写真を撮ることは絶対にできる。上手く撮れるかどうかじゃなくて、「残したいくらいに伝えたいんだ!」という情熱が強いときこそが、プロに接近する瞬間なんじゃないかと思った。( 文/小山 勇 )

 

文/構成:小山勇
編集:徳永一貴
インタビュー:鈴木さや香

 

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