父と母と家のこと。ーいつか通る道ー#001

父と母と家のこと。ーいつか通る道ー#001

もしも、いつか、誰かの役に立つのかもしれないと思い
そのままの現実を書くことにした。

まさか、
自分に早い時期でこういった現実が訪れるなんて
想像すらしてはいなかった。

私は今、いわゆるダブルケアという状態。
こどもが7歳、父と母が70の半ば。
同級生の親を見れば、まだまだ働いていて若々しく、元気にしている人が多い。
つまり、私の周りにはダブルケアは多くない状況であって、誰をどう頼るか分からないところからスタートしたのだ。
福祉や介護に従事している知り合いはいて、そういう人に少し話をしたこともあるけれど、りっぱな意見や言葉をもらったものの、聞きたいことはそういう事ではない と思いながら頷き、結局はもう大丈夫というにとどまる。

この数年、俯瞰で見てみると、老いていく、呆けていく、そういった流れは
地球上の人間の分、想いの分、過去の分、すごくたくさんの困りごとや不安があるものの、
多くの専門家たちは、ざっくりといくつかの種類に分け、それに当てはめて回答をすることにしている思う。
それはとても安心だ。
この世界に同じような境遇の人がいて、何か解決する糸口が見つかるのかもしれないと、心だけは落ち着くのかもしれない。
けれど、実際の問題は何も解決が進んでいなくて、困り果てることだらけだ。
それを隠す必要はなくて、これから困りますよ、たぶんとても大変ですよ。こんな大変がありますよ、あんな大変もありますよ
と、どうせ分類するなら、そう先にお伝えしてもらえれば、その方がよほど楽なのだと思う。
けれども、多くの専門家は大丈夫ですよ、という。何も大丈夫なことなどないのに、おまじないのようにいう。
1人ではありませんよ、なんて的外れたことをどや顔を隠した心配顔でいう人もいる。
個人で微妙に違う。そしてその微妙なところを知りたいのだ。
色んなことはすべて正しく、そして次の日にはすべて正しくなくなるのだ。

父は70歳になる手前で脳梗塞になった。
幾日か入院した後、家に帰されたが足の力が入らなくなってしまった。
そこで、まめにリハビリを行えば良かったのだろうけれど、高齢者施設のリハビリステーションには、自分よりも10歳も20歳も年上のシニアがいて
俺はまだ若い、ここに居たくない、とリハビリに行かなくなってしまった。
元々頑固で、怒れば怒鳴り散らす性格だったので、テコでも動かないような状況に、それなら好きにしたらいいよと、長年連れ添った妻も、子どもたちも、少しの信用と、疲れのなかそれ以上伝えることはなかった。
足の麻痺はどんどん進み、同じくらい頭の中の細かい脳梗塞も増え、しばらくは仕事をしていたものの、いつしか仕事をやめた。
すると、例外なく、またよく聞く話の通り、見る見るうちに老化が進んだ。
顔はいわゆるお爺さんそのものになった。

寒い季節がやってきて、寝る、暑い季節もやってきて、涼しくして寝る、とにかく寝る。
そして、少しご飯を食べまた寝る。
足はどんどん痩せていく、けれども一度感じたリハビリステーションの違和感をひきずり、あらゆるリハビリを拒否していた。

そんな状況であっても、一緒に暮らしていた90歳後半になる祖母がいたので、自分がしっかりしなくてはと思っていたのかもしれない。
しばらくして、祖母が亡くなってからの父の衰え方は更に早くなった。
見える部分でさえそうだったのだ。見えていない部分の進行には気づいた時には遅かった。

家には同じ物が何個も買いこまれ、貯金を何かで使い果たし、途方にくれた状態となってから私はその事態を理解した。
全財産をなにかで使ってしまった。それを聞いても分からないと答えるばかり。
「金銭感覚」その部分だけが以上なスピードで分からなくなってしまったようだ。
私たちは、そんな痴呆の形があると思っていなかったので、事態を少し軽く見てしまった。
認知症と言えば、「ご飯はまだかい?」「おじいちゃんもう食べたでしょ?」から始まるものだと思っていた。
けれども現実は大きく違っていた。
現実を受け止めつつ、これから、年金もあるし、それでちゃんと暮らしていけばいいよ、とあきらめた。
それでも、どこかで希望を持ってしまったのが良くなかった。お母さんにお金を預けたら大丈夫。
それもまた、当たり前のようにそう思ってしまった。
結果としていうと、母も同じように金銭感覚が恐ろしく狂い始めていたのだ。
けれども、私たち子どもは普通の会話が成り立っているように思い、それに気づかなかった。
その時から、通帳なり、カードなりを子どもたちで管理すればよかったのだ。
でも誰が言い出せるだろう。それは今までの人生での、どんな交渉よりも、とても難しい交渉である。

愛情があって、気づけない部分がある。言い出せない部分がある。
けれども、第3者を介入させるタイミングは初期では気づけないのだ。

つづく。

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