夏の旅-成長は後ろ姿にvol.3-

夏の旅-成長は後ろ姿にvol.3-

坂をどんどん登っていくと、小さな廃校が現れる。
数馬の分校記念館。もう閉校して20年経つけれど
大事に管理されている。

受付のところにおじさんがいて
どうもって迎えてくれた。
笑顔がやさしいこのお方は昔ここで教員をされていたらしい。

20年前のおもちゃで遊ぶ。

黒板が閉校当時のまま、奇跡のように残っている。
誰かの思いや、思い出がたくさんつまった場所。
もうここで学ぶ人はいないけれど、

ここに残っているだけで何かを教えてくれていると思う。
その何かは、人によって違う。
息子には床は踏むとギシギシいうってことを教えてくれたらしい。

壁には、たくさんの作品と、たくさんの写真が飾られていて
当時の行事や様子を窺い知ることができる。
管理人のおじさんは
「当時はなんてことない意味のないものを撮っていたんだよ。
スナップとかね。だけど、今になって価値を知るっていうかね。
写真が残っていてよかったよ。ほんとに。」
と言った。

その言葉に、はっとする。

今、価値があるとか、ないとか。意味があるとか、ないとか。
きっと、そうじゃない。
そんなのは誰にも分からない。
大事なことはすぐには分からない。
だから 分かるまで 残すんだよ。



だけど、ものは古くなって崩れていってしまうから。
写真でね。


帰り道、振り返りながら
すこし泣きそうになる。

もうすこし、大きくなったら
息子には知ってほしい。
分からなくていいから、ただ知ってほしい。
そしていつか 思い出してほしい。

そう思いながら撮る家族の写真に
私は写ってないけれど
わたしの目線はいつも同じ距離で写っている。

後ろ姿が立派になったね。

写真・文/鈴木さや香

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