西小山にある フロム・ロンドン・カフェ

西小山にある フロム・ロンドン・カフェ

西小山の駅を降りてすぐ、路地にそのお店はあります。
フロム・ロンドン・カフェ。一見怪しい人形が出迎えるたたずまいは異国のようで、立ち入る勇気さえ感じてしまいます。
中はBarになっていてアンティークの装飾品が雰囲気をつくる素敵な空間。
その世界の住人という感じのマスターは御歳72歳のオーノさん。
オーノさんはこの秋、9月に店を畳み田舎へ引っ越すことにきめているのです。
「もうこの町はね、僕生きにくくなっちゃって」
そんな話が急にはじまって。
店の奥では、この町に住む昔なじみの若者たちが同級会をしていました。
オーノさんは20代でアメリカに渡り2度の離婚、そしてイギリスに渡り2度の離婚をして日本に帰ってきました。
「おんな泣かせなのよね」と笑い、その頃の話をしてくれました。
武蔵小山で27年、西小山で3年、店をやってきた。
武蔵小山ではビルを所有していたが、趣味の店を閉店しビルを売ってしまったのだという。「こいうお店はさ、自社ビルでやらないとだめだよ、それが間違えだったね。」少し寂しそうにいいました。

私はこのビルの写真を偶然にも撮っていました。2013年のこと。
ビルはなんともユニークで、異国情緒あふれる月夜が似合うビルだったのを覚えています。
あるアーティストのCDアルバムの写真を撮りに、このビルにきたのでした。
ビルには女の人が一人で経営しているラーメン屋さんが入っていました。
そして、今、そのビルはなく、そしてオーノさんはお店をやめることをきめました。
みんなに引っ越し助成金のカンパを求めるオチャメさです。
オーノさんにまた来まーす。ぜったい9月までには3回来まーす!って言ってお店をあとにした。
東京は広いようで狭いのです。そして、私の行動範囲は更に狭く点のようです。だから過去と現在は常に行ったり来たりしてシナプスが、縁が、想いが、つながるのを待っているようです。

例えば、今日この町に来なかったら、この店に入らなかったら、マスターと話さなかったら、私はその紡いでいけるはずの糸をただ指に巻いているだけで、もて余していたことでしょう。

町の写真は偶然と共に、人の過去と今と未来、そして自分の過去と今と未来を交差させる、立体感のある面白さがあります。
けれども、たくさんの個人のお店が消えていく中で、そんな小さな奇跡すらおこらなくなりつつあるのを暗い足音とともに考えるのでした。

フロム・ロンドン・カフェは不定休 20時から2時まで、西小山の路地でひっそりと営業中です。

写真・文 鈴木さや香

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